エタップ参戦記(プロローグ)

 今から25年前、小学生だった私はテレビのスポーツニュースで流れた映像に釘付けになった。自転車で2000m以上の峠をいくつも駆け上り、最高時速100kmもの速度で駆け下りて行く。フランスを一周するレースの映像の美しさ、その過酷さ、どれもが信じられないものばかり。同じチームの二人の男が最強の証である黄色いジャージを争っていた。負けを認めたフランス人はアメリカ人と手を組んでゴール。ツール・ド・フランスを始めて知ったこの時からラルプ・デュエズは特別な上りとして記憶される事となった。

 ツール・ド・フランスの1ステージをレースとして走る事が出来る。エタップ・デュ・ツールの名は以前から知ってはいたが、自分が走れるレベルなんかじゃないと思っていた。憧れを目標に変えてくれたのSさんだった。無事に完走した姿を見て、自分も完走出来るかもしれないと思うようになった。そんな時に、あのラルプ・デュエズにゴールするエタップが開催される事が発表された。小学生以来の憧れを思い出し、ひとまずエントリーだけする事にした。

 それから地震や身内の不幸、いろんな出来事があった。エタップ参戦を断念するのには十分な理由だった。悩んだ末に、やはりフランスへ行く事を決意。これが最後のチャンスかもしれないし、行かずに後悔したくない。事前に山梨を走り、4000m上るのにかかる時間を計測。余程の事がない限りゴール出来るという確信をもって、フランスへと向かった。

 成田空港に着くと、見覚えのある顔が二人。ひとりはSさんだが、もう一人はレース会場などで何度かお会いした事のあるKさんだった。お互いに予想外の場所での遭遇にびっくり。でも、知ってる顔が何人も同じツアーに参加しているのは心強い。

 パリのシャルル・ド・ゴール空港を経由してTGVでリヨンへ。さらにそこからバスに乗り、シャンベリへ長い長い移動が終わり、ようやくホテルへ。翌日はモダーヌへバスで移動して受付。いろんなブースが出ていているが、日本で買えるモノとあまり変わらない。せっかくなので、明日のドリンクを購入。時間は遅いけど、コーラとパンで昼食。バケットはさすがに美味しい。コーラは日本で飲むのと変わらないけど。

 シャンベリに戻ってから軽くサイクリング。街中には自転車レーンが整備され、郊外へ行くと車が自転車を追い抜く時には1.5m以上離れるように書いた標識が。ちょっと感動。ゆるい丘を越えると牧場があり、牛達が昼寝をしていた。日本にの感覚だと夕方の時間だが、こちらはまだまだ明るい。右を見ると乗馬する女性の姿も。このままどこまでも走りたいほど気持ちがいい。途中で見つけたサイクリングロードを走り、シャンベリの町へと戻って終了。走行距離は28kmくらい。もっと走りたかったなあ。

 参加者みんなで夕食を食べる。フランスに来てから、あまり美味しいモノを食べてない気が。サラダはまあまあだったけど、ステーキは固かった。脂肪分が少ない赤身の肉を好むからか。明日の健闘を誓って解散。気がつくともう寝ないといけない時間。明日の朝は早いというのに。ベッドに入ると、何となく熱っぽく、変な汗をかく。なかなか寝付けない。睡眠不足なまま、レース当日の朝を迎えた・・・